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2005年11月2日
vol.28「メール言語症候群」

新しい時代のコミュニケーションツールとして、
コンピューターのメールがすでに一般化しています。
これからますますメールによる交流が盛んになると思います。
しかし、利便性の影には案外大きな落とし穴があります。

その落とし穴を『メール言語症候群』、あるいは簡単に『メール性格』と呼ぶことにします。
メール性格は、自動車の『ハンドル性格』と似ているところがあります。
おとなしい人がハンドルを握ると突然凶暴になるあの心理現象。
それがメールにもあるのです。
普段はとても温厚で物分りのよい人が、メールになると突然、
人が変わったような文章を送りつけてきたりするあの現象です。

原因はいくつかあげられます。
まず、送信者の文章が稚拙なこと。

心理状態以前に文章での表現能力が低いために相手の心に真意が伝わりにくい。
あるいは、伝えられない。
活字離れが進んできた現代は、ますます、表現能力が低下しますから、
メールでの表現トラブルは多くなるでしょう。

次に、思いやり欠如の時代の反映。

21世紀は『利己主義の世紀』です。 お金の前にはいかなるモラルも屈服するという時代背景の中で、
人々の心はすでに荒廃してしまいました。
私は、東京がB29の大空襲を受けて
本当に一面の焼け野原になってしまった廃墟の状態を目の当たりにしましたが、
それと同じようなレベルで壊滅的に心の荒廃が進んでいると思います。
地上には立派なビルが立ち並んでいますが、人の心は戦後の廃墟のままです。
いや、あの頃よりももっと荒廃しているかもしれません。

自分の主張を押し通すことが正義だという時代。
他者に対する思いやりが紙よりも薄くなった時代。
自分以外の誰も信じない時代。

『衣食足りて礼節を知る』という言葉がありますが、
どうやら人間は『衣食が足りれば礼節を忘れる』生命体なのではないでしょうか。
生きていること自体にうんざりする人が増えるのもわかるような気がします。
淋しいことですが、大多数の人にとって生甲斐のある時代ではなくなりましたね。

したがって、メールの文章も『読んだ人がどう感じるか』という思いやりは稀薄です。
思いっきり、自分の言いたいことを歯に衣を着せず言い切ってしまう。
相手のことは眼中になし。

メールという機能は、チャットは別にして、
一方的に攻撃しても即応した反撃はありませんから、痛くも痒くもない。
メールを打っているうちにテンションがヒートアップして、ますます、言い募る。
「言わずもがな」、なんてレベルは遠の昔に飛び去って、とことん書きまくってしまう。
究極の結果として「女子高生メール殺人事件」のようなことが起きるのです。

そして、メールは「欲求不満解消のツール」であるということ。

さまざまなメールの文章を心理学的に分析してみますと、
発信者の潜在的不満や抑圧概念などが噴出していることがわかります。
特に解決できずに持ち続けているような潜在的不満や抑圧を発散するには
メールは格好の機能です。
不満や抑圧を『我が正義』に置き換えて言い募るにはメールは非常に有効です。

また、メールという機能は『皮肉を言うのに好都合』にできています。
普通、顔を見ていては言えないようなきつい皮肉をすんなり言えてしまうのです。
しかし、それを一方的に読まされる側はたまったものではありません。
瞬時に口頭で反論できないだけに『怨念の反芻』という現象が起こり、恨みが募ります。
相手にも不満と抑圧が生まれるのです。

メールは、また、『思い込み発信のツール』でもあります。

人間関係のトラブルのほとんどの原因は誤解と思い込みですが、
メールという機能は一方的発信ですから、思いっきり『思い込み』を書き込みます。

思い込みの強い人は、慎重な性格のように思いがちですが、実は、粗忽な人が多いのです。
きちんとした原因も見極めずに、自分が正義だという思い込みで肩を怒らせて書き込みをします。
後で、それが思い込みであったということがわかったとしても、
すでに、相手は感情を害していますから、人間関係修復には時間がかかったりするでしょう。
恐ろしいのは、相手が感情を害しているだろうなどという察しすらもつかない人が増えていることです。

このようにメールという最先端の機能は、本質的に人間性の高いツールではありません。
私は、メールはせいぜいメモ程度に使い、大切なことは、電話なり面談なりで
お互い血の通い合ったコミュニケーションにするように心がけています。

ぜひ、あなたは悪しき『メール性格』や『メール言語症候群』にとりつかれないようにしてください。
あなたの周囲にそういう人がいたら、このコラムをコピーして差し上げていただけたら幸いです。